1年前に転職をして以来、しばらくぶりにいくらかまとまった金が入ったので、なんとなく、これだけのまとまった金を自由につかえるのもこれが最後かな、と思い、買ったった。
以前から一眼レフのカメラが欲しいなと思ってはいたのだけれど、特に今すぐ撮りたいものがあるわけでもないし、そこそこ良いコンパクトデジタルカメラも持っていたので、まあそのうち買えたらええかな、ぐらいに思っていた。
したところ、次の冬までまだ入らないだろうと思っていたボーナスが入ったのだ。
次のボーナスは、家の頭金か、ローンの返済につかうことになるだろう。
あるいは、たとえそうでなかったとしても、これから35年。俺は1日500円の小遣いもらい、仕事から帰ったら1本の発泡酒を飲むことだけが唯一の幸せ。みたいな生活をしなければならないのだ。
と、少々悲観的に自らの今後の人生を思い描き始めていた。
この際、本当は、10年前に買ったiMacを買い換えたかったのだけれど、パソコン買い換えようかなー、もう新しいOSに対応してなくてインストールもでけへんし、ちょっとした作業をするのにもガリガリガリガリいうて使いものにならへんのですけど。というとあからさまに嫁はん(仮)がイヤな顔をする。ほたらデジカメは? というと意外にも、ええんちゃうん? というので、この機会を逃してはもう生涯買えないのではないかと思い、次の週末にさっそく池袋のビックカメラに出向き、2世代前ぐらいのデジタル一眼レフカメラを購入した。
けっこうがんばって、価格交渉をした末、さいころを転がすと当たりが出てさらに5,000円割り引いてもらうなどもした。
その日から、家に帰って写真を撮りまくった。かというとそんなことはない。
一枚も写真を撮らなかった。
嫁はん(仮)や部屋の中、その日の料理などにカメラを向けてシャッターボタンを半押しにし、ピピッ、というのは喜んでいたが、一度もシャッターは切らなかった。
最初にシャッターを切るときは、なにか特別なものを撮りたい。
フィルムカメラでもないのだから、気に入らなければ削除するだけで良いのだということは重々承知しているのだけれど、昭和50年生まれのフィルムカメラ世代の私にとって一眼レフカメラというものはとても高級なもののような感じがして、なかなかシャッターを切ることができなかった。
嫁はん(仮)は、部屋の中でカメラを構えてシャッターを半押し、ピピッ、という音を聞いて悦に入っている俺のことをさぞかし鬱陶しく思っていたことだろう。
次の週末、デジタル一眼レフのカメラを持って、和光市の中古マンションを訪れた。
<続く>