なにを血迷ったか車を買ってしまった。 2023年2月12日、わが家に車がやって来た。Hondaのフィット。ザ、庶民。みたいなコンパクトなカー。

これまで車が欲しいなんて考えたこともなかった。まあ、車を買うような金もなかったのだが、金があればいい車に乗りたいなどと考えたこともない。

なので、20歳で普通自動車第一種運転免許を取得して27年。大学生のころに親父の車を2回ほど、あとは友だちの車を1回、ほんの少し運転したことがあるだけで、それ以降車が欲しいとも運転をしたいとも思ったことはなかった。

気がつけば結婚してもう5年。

5年前、嫁はんとの長きにわたる攻防の末に35年ローンでマンションを購入して以降、金輪際、もう大きな買いものをすることはないだろうと思っていたのだけれど。2年ほど前から嫁はんが車が欲しいと言いはじめ、知らぬ間に車のことをいろいろと調べはじめていた。道を走る車や、近所の駐車場に停まっている車を見ては、聞いてもいないのにメーカーと車種を教えてくれるようになった。

はじめは軽自動車で良いと言っていたのだが、いつの間にかやはり普通車が良い、その中でもグレードの高いのが良いということになっていった。(俺はそもそも車を買おうなどというつもりはこれっぽっちもなかったのに! いつの間にか「買わない」という選択肢は除外され、なにを買うかという話になっていた。なにが「軽自動車で良い」だ! マンションを買ったときとまるで同じではないか!)

ともあれ。車を買うことについて、まったく乗り気でなかったかというと、そんなことはない。

これからまだ長い人生、車があれば行動範囲も広がるだろうし、遠くのスーパーに行ったり、日帰り温泉に行ったりするのは楽しそうだ。が、その程度。それぐらいのことならレンタカーで良いし、なんなら都度タクシーに乗ったとしても、車を買うよりは安くつくだろう。

金のことはまあ良い(良くはないのだが)。購入費のほかに維持費燃料費などがいくらぐらいかかるのかは知らないが、それもまあどうにかなるだろう。

そんなことよりも、俺も嫁はんも20年以上に及ぶペーパードライバーなのだ。嫁はんは20代のころ運転していたことがあるらしく多少の自信があるみたいだが、根っからのゾンビメンタルな超ポジティブ人間なのでそこが信用はできない。

20年前に実家で、お義父さんの買った新車が納車されたその日に運転をして、家を出て次の曲がり角でドアを大破させたことがあると聞いている。

一方俺は、小学校のクラスで一番運動神経が悪かった部類のポンコツなので、マトモに運転できる気がしない。

嫁はんに何度購入を迫れても、俺は頑なにそれを拒否し続けた。

にもかかわらず、俺はこれまで拘泥していた考えを翻し、あっさりと車を買うことを決めてしまった。

2022年の初夏。妻の妊娠が判明した。

俺は47歳、妻は41歳なので高齢出産である。あと20年近く、いろいろと金もかかるだろう。

しかし、これからは嫁はんの病院の送り迎えも必要になるし、子どもができたら車でどこかに出かけたりもしたい。嫁はんは車が欲しいと言い続けているし、どうせ買うなら1日でも早いに越したことはない。(早く車の運転ができるようにならなければならない! 日に日に老いていくだけだ!)

特にこだわりはないので中古車でもなんでも良かったので、車種、車の色、オプションの選定などはすべて嫁はんに任せた。

どうせならタランティーノの映画に出てくるようなイカツいアメ車や、駐車場で絶対に見失わないようなド派手な色の車にしたかったが、そんな意見が通るわけもなく、また自分がそんな車を運転できる自信もないので、黙って嫁はんの希望に従った。

そんなこんなで、わが家に車がやって来た。

納車のちょっと前にペーパードライバー教習を6時間受け、納車日に実車を使って追加で3時間。

計9時間の教習を受けはしたが、その程度でマトモに運転できる気はしない。

が、買ってしまったものは仕方がない。

もう後には引けぬ。

予定通りであれば、5月末には子ができる。