トンカツ某日、仕事から帰ると嫁はん(仮)が真剣な顔でチラシを眺めていた。

「なにしとんねん?」
「見てみてー」

それは、郵便受けによく放り込まれている、不動産のチラシ。
これまで、40年の人生の中で、何百枚という不動産のチラシが郵便受けに投げ込まれてきたと思うが、1枚たりとも真剣に見たことなどない。1行も読むことなく、古紙をまとめてある紙袋にポイしてきた。
その不動産チラシを今、嫁はん(仮)が真剣に眺めている。

「それがどないしてん」
「めっちゃええと思うねんー。なあ、買うて買うてー」

間取り図の描かれたその不動産が、マンションなのか一戸建てなのかすら知らぬ。

恥ずかしながら、俺には貯金がない。

家を買うほどの貯金はない、とか、平均的な41歳サラリーマンほどの貯金はない、などといったない感ではなく、ないのだ。
だからどうせ俺にはマイホームを買うことなどできないし、たとえ金があったとしても賃貸で気ままに暮らしている方が自分の性にはあっていると思っているので、買うつもりなどさらさらない。
嫁はん(仮)にも、金がないことは付き合う前からお知らせしている。

「ええで。買うたる買うたる。」

俺は200%冗談であるという雰囲気を醸し出しながら、世界一アホな人のような口調で返事をした。

……つもりだった。

しかし、次の日も、その次の日も、家に帰ると嫁はん(仮)は、不動産のチラシを眺めていた。

<続く>