毎日のように不動産チラシを眺めるようになった嫁はん(仮)は、いつの間にか近隣の不動産情報にとても詳しくなっていた。
しかしそれらはどれも、俺には手の届くはずもない、立派な新築のマンションばかり。
この間取りが良いねとか、ここなら緑も多いねとか、近くに大きなショッピングセンターがあるねとか……。言われても、俺にとっては都心のタワーマンション最上階に住みたいね、と言われているのと同じようなもので、リアリティがない。そら、住めたらよろしいですね、絶対に無理やけどね。みたいな。
そのときはまだ、まさか本気で嫁はん(仮)が家を買おうとしているとは思っておらず、適当な感じでへらへら笑って、ええやん。などと答えていたりもしたのだけれど。
嫁はん(仮)の家買いたい熱は、日に日に真剣みを増していく。
嫁はん(仮)曰く、東京で賃貸のあほほど高い家賃を延々と払い続けるほど無駄なことはなく、払い続けたところで手元にはなにも残らず、むしろ家を買った方が賃貸を払い続けるより安いのだ。
それは分かる。
それは分かるが、嫁はん(仮)のこれが良いと言って俺に見せる物件はどれも、今の家賃を死ぬまで払い続けるよりも高くつくであろうものばかり。それに俺はいつ転勤があるかも知れず、また転勤はないにしてもオフィスが移転になったり、リストラにあって転職を余儀なくされたり、場合によっては失職してバイトを掛け持ち、寝る間も惜しんで働いて月収14万円みたいなことにならないとも限らない。そういったリスクを考えるとたとえ高くついたとしても賃貸に住み続けているほうが気楽で良いではないか。貧乏になれば、安いアパートに住み替えればよいのだし。などと、購入vs賃貸で真っ向から意見が対立し、喧嘩はしないまでもなんとなく険悪な雰囲気になることも多くなった。
このままでは、あかん。
このまま買いもしない物件の情報だけを見続けていても埒があかぬと思い、ほたらいっぺん近所の不動産屋へ行ってみて、具体的な話を聞いてみようではないか。そう言って次の週末、適当に見つけた駅前の不動産に行ってみることにした。
あれは、まだ寒い冬でした。
<続く>





