志木の中古マンションを見にいってから一週間。
嫁はん(仮)は半ばマンションを購入したようなつもりになって、風呂にテレビを置きたいだとか、プロジェクターを買ってシアタールームをつくろうよだとか、夢のマイホームへの妄想を膨らませていた。
ーなあ、なあ。マンションどうするー?
ーええんちゃうん? 買うてもええで。
ーえ! ほんなら来週、もう1回行って、詳しい話聞いてみよか?
ーえ、ちょっと待って。ええマンションやと思うし、あそこやったら俺も住みたいと思うけどなー。……今は買わへん。
ーえ? なんで?
ー俺らまだ結婚してへんし。家買うのは結婚してからや。
そう。嫁はん(仮)、と(仮)がついているとおり、嫁はん(仮)とは一緒に住んでいるがまだ結婚はしていない。
1年前の7月、彼女の誕生日にプロポーズをして、結婚しましょうという話はついているのだけれど、諸般の事情により入籍は今年の10月にしましょうということになっている。
だから、自分としては家を買っても良いと思ってはいるが、そもそもそれは結婚をしてからで良いと思っている。
その上で、いろいろと物件を見て納得のできる物件が出てくれば、買えばいいじゃないかと。
それは今年中じゃなくて良いし、2020年の東京オリンピックをピークに不動産の価値が下がっていくとも聞いているので、4〜5年後とかでもいいのではないか、と。その間に、頭金をしっかりと貯めればいいのではないか。
しかし、嫁はん(仮)は1日も早く家を買ってしまいたいと考えている。なぜなら、家賃ほどもったいないものはないから。また、4〜5年も待っていては、今度は俺の年齢を理由にローンを組めなく可能性があるから。
ーなんで?
ーいや、そやから、まだ結婚してへんし。そんなに急いで買わんでもええやん。
ー早く契約せんと、あの部屋売れてしまうかも知れへんやん。
ーその時は、その時や。10月以降、また部屋を探したらええやん。
ちなみに、嫁はん(仮)は東大阪出身の人なので、家ではコテコテの大阪弁で会話をしている。
ー家を買うことに対して、親の承諾を得る必要は無いけど、後からゴチャゴチャ言われたらめんどくさいから、買うんやったら前もって親にも話しときたい。まだ、親の顔合わせもしてないし、いつ結婚するとかもちゃんと話してない。それやのに急いでマンションだけ買おうとする理由が分からん。
ー買わへんのん?
俺は、もうこれ以上へらへらと結論を先延ばしにしている訳にはいかないと思い、わりとキツい口調でそう言った。
もうひとつ、俺はブラックリストのことがどうしても気になっていた。
嫁はん(仮)は風呂のテレビやシアタールームといったことにまで妄想を働かせているが、そもそも俺にはローンが組めないのだ。
あと何年かすれば、きっとブラックリストからも俺の名前が消えて、なんの躊躇いもなくマンションを買えるじゃないか。
ー買わへん。
嫁はん(仮)怒りのオーラを全身から発して寝室に行ってしまい、その夜は一切口をきいてくれなくなってしまった。
マズい。マズいぞ、俺!
<続く>





