オイキムチ志木の中古マンション購入を見送り、朝霞の一戸建ては購入できず。
嫁はん(仮)はすっかり静かになってしまった。もう夜になって仕事から帰ってきても、チラシやWEBサイトで物件情報を見せられることもない。
ようやく俺に金がない、という現実に目を向け、マイホーム購入を諦めたか。

ひと月ほど、静かで平穏な日々が続いていた。
その間に、志木の中古マンションは売れてしまったらしく、WEBサイトに掲載されている物件は3,280万円〜となっていた。

が、ある夜。

ー見てみてー。

不敵な笑みを浮かべてiPhoneを差し出してきた。

ー私が諦めてたと思ってたやろ?

iPhoneには新しい物件情報。しかも、予算オーバーの3,380万円である。
聞くと、決して諦めてなどおらず、あれからも毎日のように物件を探し続けていたとのこと。
しかし、志木の中古マンションのように広くて価格帯も程よい物件はそうそう見つからず、これまでは成増近辺、東武東上線沿線の物件ばかりを探していたが、都内全域に検索範囲を広げて優良物件を探していたらしい。

俺が甘かった!

志木のマンションを見にいった際、どうせ家を買うとなれば、その他に安くはない金がかかるのだから、本当に良いと思える物件であれば、多少足が出るのは仕方がない。のようなことを俺が言ったのを足がかりに、上限を3,500万円まであげて、物件を探していたのだ。
嫁はん(仮)の見ている検索サイトでは、上限の設定が「〜3,000万円」の次は「〜3,500万円」でしか検索できないのだそうな。

ーいや、買えへんっちゅうねん!
ーとりあえず、見るだけ見てみてー。
ー見るけど、買えへんで!

はじめのうちは、とりあえず差し出された物件情報を見て、なるほど予算を500万円上げると、そこそこの物件を購入できるのですね。広いし、駅からもまあまあ近いし、設備も整ってるし。などと思ったりもしたが、買えないものは、買えない。

しかし、嫁はん(仮)は一切心折れることなく、次の日も、またその次の日も、またその次の日も、新しく見つけた3,000万円から3,500万円の物件情報を見せてくる。

ー結婚するまで買わへんし、3,000万を超える物件情報なんか見る気もない! もうこれ以上、3,000万円以上の物件ばっかり見せてくるんやったら、俺はもう一生家など買わん!

正直、自分がこんなにも器のちっちゃい、しょうもない人間であるとは思っていなかった。
嫁はん(仮)が買いたいと言っているのだから、つべこべ言わずに、ええやんけ。と言って黙って買えばいいじゃないか。
そして自分は、どちらかというとたとえ後で支払いに苦労するほどの大きな借金を抱えるにしても、細かいことなど考えずに買ってしまうようなアホな人間でいたかった。
それが今では、金のことでケチな計算をして、声を荒げている。ああ、なんてしょうもない人間なんだ。

その夜は、ちょっとキツい言い方をしてしまったかな、と後悔したりもしたが、そんなことは気にする必要などなかった。
次の日も、嫁はん(仮)は笑顔でiPhoneを差し出してきた。

ー見てみてー。

倒しても倒しても、立ち上がってこちらに向かってくる、ゾンビのようだと思った。

<続く>