松茸ご飯と秋刀魚おっさんの話は長く、俺たちはもういい加減にしてくれという空気を全身から放出していた。

長い長い話が終わり、ようやく、建物の2階に用意されたモデルルームに案内される。
他にも2組のカップルが部屋を案内されていた。
広いリビングを見渡せるカウンターキッチン、部屋から段差なしで出られる広いベランダ、風呂にはテレビもある。ただし、上の階で、部屋の値段は3,480万円になりますが。

買わへん、っちゅうねん。
このおっさんは、2時間近く話をしてなにを聞いとったんじゃ。ぼけ。

部屋はとても良かったが、このおっさんから部屋を買おうとは微塵も思わない。俺もいらいらしていたが、嫁はん(仮)はもっといらいらしていた。
この後、もうひとつ、北綾瀬の戸建てを見にいこうとしていたのだけれど、その現地説明会の開始時間をもうとっくに過ぎてしまっていたのだ。

その物件の良し悪しとは関係なく、俺たちはこのおっさんへのいらいらを満タンにして、このモデルルームを後にした。

で、説明会の時間はもうとっくに過ぎていたが、とりあえず北綾瀬に向かった。

駅前にはなにもなかった。商店街も、居酒屋も、スナックも、ピンサロも。
駅を降りるとすぐに大きな道路が、右にも左にも、まっすぐ伸びているだけ。

ーあの辺に、さっき話を聞いたマンションがあるのでしょうか。

などと言いながら、大きな道路に沿って、ただひたすら歩く、歩く。

10分ほど歩いたでしょうか。大きな道路から少し入った住宅街に建つ一戸建て。
縦に長い3階建て。
1階はガレージになっていて、車が停められますよ。車ないし、運転せぇへんからいらんけど。

後で、この物件の情報をネットで見て、悪くないかなと思ったが、このときはただただ帰りたかった。

俺たちは成増の賃貸に帰って、屁をこいて、寝た。

<続く>